従業員のメンタルヘルス疾患について
1 従業員のメンタルヘルス疾患に対する対応
精神疾患で断続的に欠勤あるいは早退する職員に対してどう対処すべきでしょうか。
精神疾患とは,自律神経失調症,抑うつ状態,うつ病,適応障害,統合失調症,躁うつ病等の病名が診断書に記載がある場合です。
2 メンタルヘルスのリスク
生産性の低下や医療費負担,傷病手当見舞金,代替人件費,退職の場合の人材補充のための募集費などのコストがかかること,会社のイメージダウンや社員のモラルダウン,取引先からの不信感などの信頼性の失墜が考えられますし,訴訟リスクもあります。
3 会社側の対応
そこで,そのようなリスクを避けるために,会社としては従業員に対して,必要な配慮をしなければなりません。労働安全衛生法上一定の義務が課せられていますし,雇用契約上の付随義務として,会社は,社員を業務に従事させるに際し,社員の生命・身体・健康を守るべき義務を負っている(安全配慮義務)とされていますので,会社としても十分な対応策を講じる必要があります。
厚生労働省が定めた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では,会社が策定すべき「心の健康づくり計画」で示された4つのケアが体制作りの基盤といえます。
① セルフケア(社員自らが行うストレスへの気づきと対応)
② ラインケア(管理監督者が行う職場環境等の改善と相談への対応)
③ 社内の専門スタッフケア(社内の産業医等による専門的ケア)
④ 社外の専門スタッフケア(社外の専門機関による専門的ケア)
4 社員がメンタルヘルス疾患と診断された場合
会社は,医師の意見を聴取して(労働安全衛生法66条の4),必要が認められるときは,就業場所の変更,作業の転換,労働時間の短縮などの憎悪防止措置を講じなくてはなりません(同法66条の5)。これに反すると安全配慮義務違反を問われることになります。
そして,就業継続が可能な場合には,配置転換や軽減措置をとり様子を見ることになります。職務内容と賃金がリンクしている場合,「仕事給制度」や「職務給制度」を採用している場合には,提供されるはずの業務や職務のうち提供されなかった部分について,会社は賃金を支払う義務を免れますが,そうでない場合は減給は難しいと思われます。
これに対し,就業継続が不可能な場合には,就業規則に,休職を命じる一般的な規定があれば,休職命令を出すことができます。休職は,社員の都合で休職するので無給が原則です。この就業継続が可能か不可能かの判断については医師の意見が尊重されます。
5メンタルヘルス疾患を根拠に解雇ができるか
一般的には,就業規則上,「心身の故障のため業務に堪えないとき」という普通解雇の定めがあり,普通解雇できないかが問題となります。
このような規定があっても,一旦休職扱いとして様子を見て,休職期間満了時に復職不可能であればそのまま解雇するというのが望ましいと思います。休職期間をおかずに解雇した場合,会社が何ら治療に配慮していないとみなされる可能性が高いからです。
但し,休業期間を経過したとしても就業不可能であることが明らかな場合は,休職期間をおかずに解雇しても有効とされる場合はあります(東京地裁平成14年4月24日判決労働判例828号22頁-岡田運送事件-はその例です)。
この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 代表弁護士
森本 精一
保有資格弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野企業法務、債務整理、離婚、交通事故、相続
経歴
昭和60年3月 | 中央大学法学部法律学科卒業 (渥美東洋ゼミ・中央大学真法会) |
昭和63年10月 | 司法試験合格 |
平成元年4月 | 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生) |
平成3年4月 | 弁護士登録(東京弁護士会登録) |
平成6年11月 | 長崎県弁護士会へ登録換 開業 森本精一法律事務所開設 |
平成13年10月 | CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得 |
平成14年4月 | 1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得 |
平成25年1月 | 弁護士法人ユスティティア設立 |