ニュースレター 2013年8月1日号
株式の帰属をめぐる紛争の予防
1 オーナー経営者が死亡した場合,遺産分割前の株式は準共有になります。共有者の協議によって代表者(権利行使者)を定め,会社に通知しなければ,権利行使をすることができません(会社法106条)。但し,会社の同意があれば,通知なしで行使させることができるとされています。
共有者,すなわち相続人間で協議が整わなければ,権利を行使することができず,会社に関する基本的な運営事項を決めることができないという異常事態が想定されます。
2 これを防ぐためにはどうすればいいでしょうか?
1つは,遺言で,株式の帰属を明確化しておく方法があります。遺留分については,中小企業における経営の円滑化に関する法律4条に特別の定めがあります。株式等を遺留分に算入しないという除外合意の方法と株式等の遺留分の算定価額を固定する固定合意という方法が定められています。
但し,遺留分の算定にかかわる合意は,指定相続人全員の合意が必要とされています。対象会社の要件についての定めもありますので,この点のチェックも必要です。また,遺言は,成立や解釈について争いが生じやすく,遺言者の気が変わって,別の遺言が作成される可能性もあります。遺言に関する紛争防止のためには,事前に弁護士の相談を受けていただくことと,公証人役場で公正証書遺言の形で解釈に争いのない遺言を作成しておく必要があります。
3 2つめの方法として,定款で,相続人に対する売渡請求権(会社法174条)を規定しておく方法が考えられます。
これは,譲渡制限株式で,相続開始を認識してから1年の間に,株主総会の特別決議をもってなされるものです(157条1項)。当然請求対象株主は,議決権を行使することはできません(175条2項)。
4 3つめの方法として,前回お話しした株主毎に異なる取り扱いをする旨の定め(同法109条2項)をして,議決権・配当を事業承継者に有利に規定する方法も考えられます。全株式譲渡制限会社であることが前提ですが,例えば,解釈上,定款で特定の株主の所有株式について一株複数議決権を認めることができると解されています。
定款に定めがなく,新たに定める場合には,定款変更の手続(特別決議)が必要となることは,前回述べたとおりです。
次回は,事業承継の続きとしての事業再生(債務処理)の方法について,ご紹介致します。
この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 代表弁護士
森本 精一
保有資格弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野企業法務、債務整理、離婚、交通事故、相続
経歴
昭和60年3月 | 中央大学法学部法律学科卒業 (渥美東洋ゼミ・中央大学真法会) |
昭和63年10月 | 司法試験合格 |
平成元年4月 | 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生) |
平成3年4月 | 弁護士登録(東京弁護士会登録) |
平成6年11月 | 長崎県弁護士会へ登録換 開業 森本精一法律事務所開設 |
平成13年10月 | CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得 |
平成14年4月 | 1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得 |
平成25年1月 | 弁護士法人ユスティティア設立 |