個人再生とは
個人再生とは、大幅に返済額を減額できるよう裁判所を通じて再生計画が立てられる手法です。これは借金を返せない状況になった人が、自己破産をせずに済むように民事再生法の改正という形で規定(平成12年11月29日交付、平成13年4月1日施行)され始まった比較的新しい制度です。
個人再生の特徴は、住宅ローン特別条項を使うことで、あなたのマイホームを守れるという点です。
・住宅ローンの返済が厳しいが、自己破産をしたくない
・マイホームを手放したくない
・仕事上の関係で、自己破産をするわけにいかない
・毎月の債務返済額を減らしたいなどこのような方は個人再生手続のご利用をご検討ください。
個人再生手続制定前の法制度の状況
(1) 破産・免責手続
債務者にとっては、
① 財産の清算が行われるため、住宅を保持することができません。
② 専門資格者や取締役の場合(旧商法)には,資格喪失という法律上の不利益があります。
③ 破産者の絡印を押され、勤務先を退職せざるを得ない事実上の不利益があります。
④ 免責不許可事由が存在する場合に手続を利用した場合は免責不許可となる可能性があり、そのような場合の解決手段としては不適当です。
債権者にとっては、無担保債権者の場合、破産宣告時保有する財産の清算が行われるのみで、同時廃止の場合、債権回収ができないという不利益があります。
(2) 民事再生手続
主として中小企業以上の利用者を予想しており、手続上の負担が重すぎます。担保権者は、別除権者に過ぎず、住宅を取得することができません。
(3) 特定調停、債務弁済協定調停、債務整理
利息制限法の引き直し計算後の多重債務の残元本総額を分割払いできる状況にない債務者は合意の成立が困難。
利息制限法の引き直し計算や利息等の減免に同意しない債権者がいると手続利用が困難。
個人再生手続制定の社会的背景
① バブル経済崩壊による破産事件の増大
② ステップ(ゆとり)返済式住宅ローン(当初の一定期問の返済額を少なくする代わりに、ステップ期間終了後に返済額を増やすという返済方法で、最初の数年間〔=ステップ期間〕は、公庫や年金融資の場合は当初の5年間、民間金融機関では5年や10年などまちまちで、3段階ステップ返済方式というのもありました。
これはいわば「負担先送り」型であり、インフレ時代には適していますが、デフレ時代には適当ではありません。)という年功序列型賃金制度が前提とした住宅ローンが多く利用されていましたが、年功序列型賃金制度が崩壊し、右肩上がりの賃金が得られなくなったために返済ができなくなる事例が多くみられるようになりました。
どういう手続をとるべきかについて
住宅ローン自体が支払い不能の場合
(1) そもそも取得時自体から支払い不能の場合
→破産の方が適切な場合が多いと思われます。
(2) 取得時には支払可能であったが,その後支払い不能となった場合
→住宅ローン特別条項を使うことで現実的に支払が可能かどうかを検討する必要があります。
免責不許可事由がある場合
→少額管財の免責観察型の利用のほか、個人再生の選択が考えられます。
親族の援助が期待できる場合
→一括弁済が可能な場合は債務整理でしょうが、分割金支払についての援助となれば、個人再生の選択が考えられます。
過払金が発生する場合
(1) 数社の過払金でほかの債務が返済できるような場合
→債務整理の選択が適切な場合が多いと思われます。
(2) 過払金が発生するが,全体債務の返済には足りない場合
→残債がどれだけになるかにより、債務整理または個人再生の選択になると思われます。
業者が債務整理基準による任意整理に応じない場合
→個人再生の選択が考えられます。
個人再生の種類
個人再生には2種類の方法があります。
1小規模事業者再生手続
利用対象者
① 将来における継続的な収入の見込みがある個人債務者
② 無担保再生債権の総額が5000万円を超えないもの(平成15年改正により拡大)
再生計画の実体要件
(1)原則として3年(「特別の事情」がある場合には5年を超えない期間)
3ヶ月に1回以上の割合による支払(229条2項)
(2) 最低弁済額の制限
① 清算価値を上回ること(174条2項4号)
→清算価値保証原則のことです。
→破算配当より多く支払うことから、「再生債権者の一般の利益」に反しないとされています。
② 無担保再生債権の額による制限(231条2項3号、4号)
3000万円を超え,5000万円以下の場合 10分の1以上の額
3000万円以下の場合
当該債務の5分の1以上の額
ただし、100万円を下回るときは最低100万円
当該債務の5分の1が300万円を超えるときは300万円以上の額であること
再生計画の手続要件
(1) 書面決議(230条3項)
(2) 反対の意思を表明した議決権者が議決権者総数の半数に満たず、かつ、反対の意思を表示した者の議決権の額が議決権総額の2分の1を超えないときは、可決したものとみなされます(消極的同意要件-同条6項)
→もし、超えたときは職権で再生手続は廃止されます(237条1項)
2給与所得者再生手続
利用対象者
(1) 小規模再生手続が申し立てできるもの
① 将来における継続的な収入の見込みがある個人債務者
② 無担保再生債権の総額が5000万円を超えないもの(平成15年改正により拡大)
(2) 給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者
(3) その額の変動の額が小さいと見込まれるもの
再生計画の実体要件
(1) 小規模再生手続と同様の弁済期間
原則として3年(「特別の事情」がある場合には5年を超えない期間)3ヶ月に1回以上の割合による支払
(2) 最低弁済額の制限
小規模再生手続と同様の要件
① 清算価値を上回ること
② 無担保再生債権の額による制限
3000万円を超え、5000万円以下の場合:10分の1以上の額
3000万円以下の場合:当該債務の5分の1以上の額
ただし、100万円を下回るときは最低100万円
当該債務の5分の1が300万円を超えるときは300万円以上の額であることに加えて、再生債務者の手取り収入から再生債務者及びその被扶養者の最低生活費のみを控除した額(可処分所得の額)の2年分を支払うこと(241条2項7号)
手続の特質
(1) 再生債権者の意見聴取は行いますが、多数の同意は不要です。
∵可処分所得が法定の基準によって合理性をもって算出される以上、再生債権者との間での調整の余地はなく、再生債権者に決議をもって再生計画の合理性を判断する機会を与えるまでの必要性はないからです。
(2) 給与所得者再生計画認可決定確定、ハードシップ免責、破産免責決定確定後7年以内の給与所得者再生申立はできないことになっています(239条5項2号イ~ハ)。
→小規模再生手続にはこの制限がありません。
小規模事業者再生手続と給与所得者再生手続の関係
給与所得者であっても、小規模事業者再生手続を利用することは可能です。給与所得者再生手続の場合、可処分所得の2年分という要件が加重されるため、債権者の同意が不用となっていますが、一部の公的金融機関等を除くと、債権者の不同意がほとんどないことと、可処分所得の2年分という要件のため最低弁済額が大きくなってしまうことが多いために、実務上は小規模事業者再生手続を利用することが原則になっています。
個人再生のメリット・デメリット
メリット
・借金のできたいきさつは問われません(ギャンブルや浪費であっても利用できます)。
・マイホームを手放すことなく借金の整理ができます。
・専門資格者等について資格制限がなく、仕事にも影響はほぼありません。
・住宅ローン返済計画の見直しができます。
・債務整理に同意しない債権者に対しても、要件を満たせば再生計画にしたがって弁済をしていくことが可能です。
・分割返済は最大5年まで返済可能です。
デメリット
・ブラックリストに載るため、5年程度新たな借入ができません。
・官報に個人情報が掲載されます(再生手続開始、書面決議又は意見陳述、再生計画認可の3回掲載されます)。
住宅資金(住宅ローン)特別条項について
1 住宅資金貸付債権とは
(1) 「住宅」とは,個人である再生債務者が所有(共有でもよい)し、自己の居住の用に供するものであり、かつその床面積の半分以上がもっぱら自己の居住の用に供されるもの(196条1号)をいいます。
(2) 「住宅」の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けをいいます(196条3号)。
(3) 分割払いの定めのある再生債権でなければなりません(同条同号)。
(4) 当該債権又は当該債権に係る債務の保証人の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいいます(同条同号)。
2 住宅資金貸付債権とならない場合
住宅資金貸付債権とならない場合は次のとおりです。
(1) 保証を業としない保証人等が民法500条の弁済による代位に基づき取得した住宅資金付債権(198条1項本文括弧書き)
(2) 保証債務の全部の履行から6ケ月を経過した後に民事再生手続の申立がなされたとき(198条2項)
(3) 当該住宅の上に別の抵当権が設定されている場合( 198条1項但書)
(4) 当該住宅以外の不動産にも住宅資金貸付債権のための抵当権が設定されていて,その不動産に後順位抵当権者がいる場合(同条同項但書)
3 特別条項の内容(199条)
(1) 期限の利益回復型(原則形態,同条1項)
① 約定利息及び遅延損害金を一般弁済期間(3~5年)内に他の一般再生債権の弁済をしながら支払う,
② 確定時以降に弁済期が到来する分割払い分については,当初の約定どおり支払うことで,期限の利益喪失を治癒する方法
→一般弁済期間内に,約定どおりの住宅ローン,再生計画による一般再生債権の支払,過去の不履行分の住宅ローン分の3種類を支払うことになります。
(2) 期限の繰り延べ型(同条2項)
① (1)の特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合
② (1)の①及び②も満たすこと
③ 最長で10年間延長することができる
④ 最後の弁済期における再生債務者の年齢が70歳を超えないこと
⑤ 今後の弁済については当初の約定おける弁済額及び弁済額の定めに概ね沿うこと
(3) 元本支払の一部猶予型(同条3項)
① (2)の特別条項も履行可能性がないと見込まれる場合
② (2)の特別条項の内容に加えて,
③ 一般弁済期感の範囲内で定める期間中,元本の一部について弁済を猶予する
(4) 同意に基づく変形型(同条4項)
(5) 従来の約定どおり支払うことの可否
85条の弁済禁止効が及ぶのではないかということが問題視されていましたが、平成15年4月1日より改正され、再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者の申立により、その弁済をすることを許可することができる旨の規定が新設されました(197条3項)。
4 住宅資金貸付債権の手続上の取扱い
(1) 住宅ローン債権者との間で事前協議が必要(規則101条)
(2) 199条1項~3項のタイプに関し、住宅ローン債権者の同意は不要です。意見聴取のみ行うことになっており(201条2項)、議決権はありません(同条1項)。
(3) 保証会社が代位弁済していても、住宅ローン債権はもとの金融機関に戻ります(204条1項)。
(4) 住宅資金貸付債権特別条項の権利変更の効力は、保証人、住宅の敷地の牧上保証人、連帯保証人に対しても効力が及びます。
弁護士に頼むメリット
個人再生を申請した方の殆どは、弁護士を経由しています。支払う報酬は発生しますが、その分取立てをとめて新しい生活の再建をすることができますので、トータルで考えると早々に相談をし、依頼をしたほうが依頼者の負担は軽減されます。
債権者(貸金業者など)の取立てが止まる
弁護士から各債権者に受任通知を送付することで、債権者からの取立てをとめることができます。これは貸金業法で定められています(貸金業法21条1項9号)。
債権者のやり取り、煩雑な手続きや書類作成を弁護士が対応してくれる
今までは依頼者⇔債権者と直接取引をしていたものが、弁護士が対応しますので精神的負担を大きく減らすことができます。また、専門的な書類作成は弁護士に任せることができます。個人再生手続は手続が複雑で法律を作った人(立法担当者)は代理人の存在を前提としているということです。
個人再生の流れ
① 弁護士へ個人再生の依頼
② 弁護士が債権者に受任通知書を送付
→通知が業者に届いた時点で本人請求がなくなります
③ 個人再生手続の申立て
必要書類を集めて弁護士と打ち合わせをし、弁護士において申立書を作成、裁判所に提出します。
④ 個人再生委員と面接
裁判所で選任された個人再生委員と面接し、再生委員は手続開始の意見書を提出します。長崎地方裁判所においては全件個人再生委員が選任される運用です。佐世保支部においては、申立代理人が付いている場合には、代理人が再生委員の仕事をすることが予定されています。
⑤ 裁判所にて開始決定が出されます。
この段階で強制執行の停止が可能になります。
⑥ 債権届出
⑦ 規則120条書面、報告書提出
⑧ 債権確定
個人再生委員において一般異議申述、評価の申立
⑨ 再生計画案を作成・提出
期日を途過すると不認可となります。
⑩ 書面決議に関する個人再生委員の意見書が提出されます。
⑪ 書面決議(または意見聴取)
⑫ 債権者の回答書提出
⑬ 認可の可否に関する個人再生委員の意見書が提出されます。
この間4ヶ月間個人再生委員の口座へ積み立てがなされ、債務者の履行可能性がテストされます。この積み立てができていない場合には、履行可能性がないとして不認可の意見書が出され、裁判所は職権で再生手続を廃止することになります。
⑭ 再生認可決定、返済開始
裁判所に申立後、約半年後から再生計画にしたがった返済が始まります。
個人再生手続費用
着手金(税込) |
報酬なし 預かり金は予納金相当額 |
住宅ローン特別条項がない場合 27.5万円 住宅ローン特別条項がある場合 38.5万円 |
個人再生相談者の声
4年前から給与の減額、ボーナスカットが立て続けに起こり、貸金業者に借入をしてしまい、家計は火の車になってしまいました。家族のことを考えて、家だけは守りたかったので森本綜合法律事務所に相談したところ個人再生を教えてもらいました。
返済額も調整でき、何とか家を守ることができました。ありがとうございました。