会社の経営を悪化させていた取締役を解任したら損害賠償を請求された事例
相談内容
有限会社Y社の代表取締役であるA氏からの相談でした。A氏はY社を母親から受け継いで代表取締役となりました。Y社はもともと2部門に分かれて経営されており、1部門(アルファ部門)を当時代表取締役であった母親、もう1部門(ベータ部門)を取締役であるX氏が担当していました。
X氏が担当するベータ部門は単なる一部門に過ぎず法人格はなかったのですが、X氏はまるで独立採算の別事業と考え、ベータ部門を自分の個人事業のように扱っていました。またベータ部門の赤字が続いていても当時の代表取締役の忠告や指示に全く聞く耳を持たず、さらに経営を悪化させていました。
A氏がY社を継ぎ代表取締役となってから、経営の再建を図ろうとしましたが、X氏は経営姿勢を変えなかったため解任することになりました。
すると、解任されたX氏は取締役としての任期に期限はなかったにも関わらず、不当に解任されたと主張して、Y社に対して損害賠償を求めてきました。
争点
- 会社法339条2項の適用について
- 解任する正当な理由があったかどうか
弁護士の提案内容
- 会社法339条2項は任期に対する取締役の期待を保護するものです。会社法には取締役の任期の定めがあり(会社法339条1項)、取締役が任期期間中に不当に解任される事態に対して、株式会社に故意・過失を要件としない法定の責任を課したものです。Y社は特例有限会社であり、取締役の任期の定めがなかったため会社法339条2項の趣旨は及ばないと主張しました。
- 法令違反(X氏はベータ部門を法人格ある別会社のように扱い、代表取締役という肩書や印章を勝手に使用していました)、経営の失敗があり赤字であったことを正当な理由として主張しました。
結果
X氏の主張は認められませんでした。
弁護士の所感
新しい会社法により有限会社はなくなり,特例有限会社として,株式会社に準じる扱いですが,取締役の任期については,従前通りの規制が適用されることになっており(整備法18条),旧有限会社法では,取締役の任期には制限がなかったため,定款で制限しなければ,辞任・解任などがない限り,取締役で有続ける事が可能でした。
そうすると,任期に関する正当な期待を保護するのが,会社法339条2項の趣旨であるとすれば,任期がない以上その適用はないことになります。
同様の判断を示した裁判例として,東京地裁平成28年6月29日判決・判時2325号124頁,秋田地裁平成21年9月8日判決・金法1356号59頁があります。
X氏は,民法651条2項の「不利な時期」による解除であるから損害賠償ができるとの主張もおこないましたが,この「不利な時期」とは,委任事務処理自体に関して受任者が不利益を蒙るべき時期をいい,事務処理とは別の報酬の喪失の場合は含まれないものとして,この点に関する主張も裁判所は採用しませんでした。
昭和60年3月 | 中央大学法学部法律学科卒業 (渥美東洋ゼミ・中央大学真法会) |
昭和63年10月 | 司法試験合格 |
平成元年4月 | 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生) |
平成3年4月 | 弁護士登録(東京弁護士会登録) |
平成6年11月 | 長崎県弁護士会へ登録換 開業 森本精一法律事務所開設 |
平成13年10月 | CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得 |
平成14年4月 | 1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得 |
平成25年1月 | 弁護士法人ユスティティア設立 |