平成24年8月22日
担当 弁護士 湯 川 優 子
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1 成年後見人の職務
① 成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で,家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者)の財産を適正に管理すること,
※義務の程度については,善良な管理者による注意義務とされている。これは,自己の財産に対する注意義務より重い義務であり,不注意で義務に違反した場合に,損害賠償責任を負う場合がある。
② 被後見人の身上監護に配慮すること,
③ 成年後見人として行った職務の内容を家庭裁判所に報告することである。
2 就任直後の職務
後見人に選任された後,しばらくして,家庭裁判所から後見開始・後見人選任の審判書,①財産目録及び②後見事務報告書の書式が送付される。
後見開始申立書を謄写し(写しを渡してくれる裁判所もあり),内容を確認する。
家庭裁判所が定めた,財産目録と後見事務報告書の提出日(審判から約1ヶ月)までに,財産目録と報告書を作成し,家庭裁判所へ提出する。
①財産管理(財産を調査して,財産目録を提出することが主な職務)
ア 被後見人の財産
調査の上,財産目録に記載が必要な事項
ⅰ 不動産(被後見人名義の土地・建物。単独で所有する場合だけでなく,持分がある場合も含む。)
地目・種類,所在地,地・床面積(㎡),評価額,利用状況などを記載
・不動産がある場合,その評価額(不動産がある場合には固定資産課税台帳(土地・家屋)評価額証明書を添付する。不動産の所在地の市役所で取得。)
ⅱ 預貯金
金融機関,種別・口座番号,金額,管理者などを記載
・特に,被後見人名義の預貯金については,
「○○(被後見人の名前)成年後見人○○」という名義の口座に変更する必要があるので,早めに金融機関へ行って名義の変更手続きを行う(その際には,後見人選任の審判書,成年後見に係る登記事項証明書(法務局で取得)等の必要書類があるので,金融機関へ予め電話確認等をしてから行う)。その上で,記帳を行う。
また,申立時点では,預金残高が不明な場合があるので,その場合には,被後見人名義の口座のある金融機関に照会をかけて,残高を開示してもらう。
ⅲ 現金
金額,保管場所(保管者)などを記載
・施設に預けている現金なども確認する。
ⅳ 保険金等の請求権(被後見人が契約者又は受取人であるもの)
契約者,被保険者,受取人,保険会社,種類,証券番号,保険金額などを記載
・主に,加入している保険についての契約の内容を確認し,記載する。
ⅴ 有価証券
銘柄・振出人等,数量,管理者などを記載
ⅵ 負債
借入日,残高,返済方法などを記載
・税金の滞納及び保険料の滞納があればその記載を行う。
・施設入所代の滞納があればその記載を行う。
・病院代の滞納等があればその記載を行う。
・その他,借入金の記載を行う。
※だいたい,後見申立書に記載されている。変動があることが明らかな場合などは,借入先に借入残高を開示してもらって記載する。申立書に詳細不明と記載がある場合には,借入先に借入残高や契約の内容を確認する。
ⅶ その他
何かあれば記載する。
イ 被後見人の収入
区分,内容,金額,支給月,管理者などを記載
ウ 被後見人の支出
区分,内容,金額,支払月,管理者などを記載
・入院診療費,国民健康保険料,税金などの記載を行う。
②身上監護
被後見人に会いに行って,生活状況や健康状態などを聞き取り,後見事務報告書(選任時)の作成を行う。
記載が必要な事項
ア 本人の氏名,年齢,住所など
イ 本人と同居する家族(代表者)の氏名,年齢,緊急連絡先など
ウ 本人の現在の心身の状況,今後の見通し
※特に,病気がある場合には,主治医や看護師などに今後の見通しなどを聞く。
エ 本人の生活及び療養のために,後見人が行っていること
オ 本人の生活費や療養費は毎月どのくらいかかるか。支出にあたって,誰がいくら負担しているか。
カ 今後の生活や治療,その費用についてどうする予定か。
キ 現在,特に困っていること
ク 遺産分割の状況
ケ 本人に関する財産の管理方針
財産目録記載の財産(資産・負債等)をどのような方針で管理するか。
・現状維持
・処分する場合,処分の予定
・賃貸する場合,賃貸の予定
・負債について,支払の予定
コ 本人と後見人との間に将来清算すべき貸借関係があるか。
・ある場合には内容を記載。
3 就任中の職務
①財産管理
ア 被後見人の生活や療養,財産管理等に必要な費用を計算するなどして,財産管理の計画を立てる。
特に,成年後見人に選任された当初から被後見人に保険料,病院代,施設入所料などの滞納がある場合があるので,その場合には,成年被後見人の年金収入などから返済計画を立てて,各債権者と協議して返済内容を検討する。
イ 被後見人の財産を適正に管理する。
預貯金通帳の保管,保険金や年金等の受領,必要な経費の支出(毎月の施設入所料金,保険料の滞納分についての返済などを行う。当初立てた計画に基づいての支払を行う。
※保険金の受領に関して
被後見人が怪我や病気で入院した場合,被後見人が加入している保険の保険金の給付手続を取る必要が生じるので,加入している保険会社へ連絡して,求められる書類の記載,診断書等の必要な資料を提出して保険金を受領する。
※投機的運用はしない。株式や元本割れの危険のある金融商品の購入は禁止。
ウ 財産の管理状況,経過を適切に記録する
預金については記帳を行う。何か契約をした時には,契約書を保管する。支払については,領収書を保存しておくなど。
②身上監護
ア 被後見人の生活や健康,療養等の世話を行う。
必ずしも被後見人を引き取って同居したり,直接的な身体介護をしなければならないわけではない。被後見人の直接的な身体介護については,親族や病院,施設等にゆだねることが可能。
ただし,後見人は,被後見人が適切な医療や介護を受けているか確認することが必要。
イ 被後見人の住居の確保,生活環境の整備,施設等の入退所契約,病院への治療及び入院手続
契約書の記載,契約内容が確実に実行されているかの確認,必要がある場合には改善を求める,費用の支払を行う等
ウ 注意点
身上監護にあたって,被後見人の意思を尊重すること
本人の意思に反する入院や介護等の強制は後見人には許されていない。
4 特別な職務(遺産分割,不動産処分等)
遺産分割
遺産分割については,少なくとも法定相続分は確保する。
まずは他の相続人と協議する。
協議が進まない場合,家庭裁判所での調停の利用を検討する。
居住用不動産の処分(売却,抵当権設定,取り壊し,賃貸,賃貸借契約の解除など)
居住用不動産の処分については,家庭裁判所の許可が必要とされ,許可がなく行った場合には,処分が無効とされるので注意する。
家庭裁判所に対し,居住用不動産処分許可の申立を書面で行う。
※書式については,裁判所のホームページから入手できる。印紙代が800円必要。その他,必要書類を確認の上,提出する。
「居住用不動産」とは,被後見人が現に居住し,または,居住する予定のある建物とその敷地のこと。現在,施設入所であっても,入所前に居住していた自宅は含まれる。
5 財産目録の作成・家庭裁判所への報告
家庭裁判所へ選任時の報告書を提出した後は,定期的に(1年に1回程度),財産目録と後見事務報告書を作成し,家庭裁判所へ提出する。
この報告書提出以外にも,不明なことがあれば,裁判所へ電話をして質問されるのが良いし,何かあったら報告しておくのが良いと思う。
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以上