慰謝料とは何か
「夫の暴力が原因で離婚になったのだから、慰謝料をもらいたい」
「浮気をした夫に慰謝料を請求したい」
など、慰謝料についてのご相談は多くあります。
慰謝料とは、相手の浮気(不貞)や暴力などによって「精神的苦痛」を受けたことに対する損害賠償金です。
どのような場合に慰謝料は認められるのでしょうか?
離婚にまで至る経緯のなかで、相手から多大な苦痛を受けた場合に請求することができますが、苦痛を感じれば必ず慰謝料が認められるわけではありません。
慰謝料が認められるためには、相手の行為が違法であることが前提となります。
相手の行為が違法行為といえない場合には、慰謝料は認められないことが多いです。
慰謝料の法律構成
慰謝料の法律構成としては、
① 個々の暴行、虐待等の権利侵害によって生じた精神的障害という個別の不法行為
という構成と、
② 相手方の有責な行為によって離婚を余儀なくされたことによって被った精神的障害
という構成が考えられます。
一般的には、②が①を吸収する関係になり、金額も多額になることから②だけを主張することが多いと思います。
但し、後遺障害の残る暴行があり一般的な離婚慰謝料を超えている場合には①も別に主張することが必要です(離婚に基づく慰謝料のほか、婚姻期間中の暴行に基づく後遺障害による逸失利益、慰謝料等の損害賠償を認めた事例として、大阪高裁平成12年3月8日判時1744号91頁があります)。
なお、この法律構成の違いは、時効の起算点に影響を及ぼすものと考えられます。①の法律構成によれば、個々の不法行為の時から3年です。②の法律構成によれば、離婚の時から3年となります。
慰謝料が認められるケース・認められないケース
慰謝料が認められる違法行為の例としては、不貞や暴力などが挙げられます。
単なる性格の不一致や価値観の違いは、違法行為とまでは言えず、慰謝料請求できない場合がほとんどです。
慰謝料が認められるケース
・不貞行為(「自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」-最判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁)
・配偶者に対する暴力行為
・生活費を渡さないなどして配偶者としての義務を果たしていない
慰謝料が認められないケース
・相手方に離婚の原因がない
・お互いに離婚原因の責任がある
・価値観の違いなど、離婚原因に違法性がない
慰謝料算定の要素
慰謝料はどれくらい請求できるのか?
精神的苦痛を客観的に算定するのは困難です。
算定に考慮される要素に関して、次のような文献があります。
「離婚慰謝料の算定にあたっては、一般に、
① 有責性
② 婚姻期間
③ 相手方の資力
が大きな要因であるといわれており、具体的事情としては、上記①については、・・・婚姻破綻原因、破綻に至る経緯、婚姻生活の実情、有責行為の態様、非嫡出子の出生や認知、責任の割合などが事案に応じて考慮されている。
また、②については、・・・裁判例において,いずれも相当程度に斟酌されている。・・・
更に、③に関しては、・・・離婚慰謝料を不法行為に基づく損害賠償であると解するならば、相手方の資力により、その有責性や当事者の受けた精神的苦痛の大きさが左右されるものであるとは直ちにいえない。」(「慰謝料請求の傾向と裁判例」松原里美・判例タイムズ1100号「家事関係裁判例と実務245題」66頁参照)
もっとわかりやすい基準としては、
「大まかな傾向として、次のようなことがいえる。
① 有責性が高いほど高い。
② 精神的苦痛や肉体的苦痛が激しいほど高い。
③ 婚姻期間が長く、年齢が高いほど高い。
④ 未成年子のいる方が、いない場合よりも高い。
⑤ 有責配偶者に資力があり社会的地位が高いほど高い。
⑥ 無責の配偶者の資力がないほど高い。
⑦ 財産分与による経済的充足がある場合に低い。」
(判例ガイド155頁参照)
裁判所で認められる慰謝料は200万円から300万円程度が多く、500万円を超えるケースはあまりみかけません(判例ガイド154頁参照)。
1,000万円以上といった高額な慰謝料が成立したケースはほとんど見られません(ちなみに、婚姻期間52年、別居期間約40年という有責配偶者に関する最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁の差戻審である東京高判平成元年11月29日判タ727号51頁は1500万円の慰謝料を認めています)。
上記の相場はあくまでも裁判での基準です。
協議(話し合い)の中で決めるのであれば、双方が合意していれば、基準はありません。
慰謝料が認められるか認められないか、どれくらい請求できるか
ということについてはケースバイケースです。
適正な慰謝料を受け取るためにも、弁護士にご相談されることをお勧めします。
不貞の相手方の責任
配偶者の自由意思の問題だから、相手の人まで責任を負うのはおかしいという有力な見解もありますが(学説の対立については、水野紀子「不倫の相手方に対する慰謝料」前掲「家事関係裁判例と実務245題」64頁参照)、最高裁判所は責任を認めています。
「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである」(最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁)
これに対し、次のような場合は、責任を負わないとされています。
「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係が当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対する不法行為責任を負わない」
(最判平成8年3月26日民集50巻4号993頁)
夫と不倫関係にあった女性に対し、妻が慰謝料を請求した事案において、妻が女性に夫との夫婦仲が冷めており離婚するつもりである旨話したことが不倫の原因をなしている上、不倫関係を知った妻が、夫の同女に対する暴力を利用して金員を要求したことなどの事情を勘案すると、妻が慰謝料請求権を行使することは、信義則に反し、権利濫用として許されないとした事例
(最判平成8年6月18日家月48巻12号39頁)
では不貞をした配偶者と不貞の相手方の責任の関係はどうなるのでしょうか
法律上は、共同不法行為として、不真正連帯債務になると解されています。
たとえが適切かどうか分かりませんが、たとえば、2人が共同して1人を一方的に殴った場合と同じで、1人が損害賠償を全額支払えば、もう1人は支払を免れるような関係です。
第三者の責任の軽重については、裁判例では、不貞をした配偶者と同程度とするものと、副次的であるとして慰謝料の額を少なくするものとがあります。
不貞の相手方から適正な慰謝料を受け取るためにも、あるいは、不貞の相手方であるとして請求されている場合に、適正な慰謝料額で解決するためにも、弁護士にご相談されることをお勧めします。